2014/05/18

登山と犬

最初に言うが、私は登山が嫌いだ。別に自然は好きだし、野原を走り回ったり、キャンプに行ったり、海や川で水と戯れたり、畑を耕すのも厭わないし、汚れるのもドンと来いだ。しかし、登山となれば話は別。いつまでも変わらない景色を眺めながらひたすら坂道を登り続けて、山の上に着いたところで別に何かを得られるわけでも、ご褒美があるわけでもない。かといって、ここまで登った、この景色を見られた、なんと素晴らしい事だ、などと感じるほど無邪気な心でいるはずもなく、こんなに苦労して登った挙句が結局、ただ登ってきた道を降りるだけなのかと虚無感に襲われるのみ。何が愉しいのか一向に分からない。

そんな私にこれまで、登山家を称する友人が散々、登山の素晴らしさを説いては、私の(彼らに言わせれば)誤解を解こうとしてきたが、すべてその企みは、私の「それがなに?」発言で打ち砕かれてきた。ある種、芸術の素晴らしさを理解できない人に、どうやればその芸術の素晴らしさを理解させられるのか、という命題に近いものがあるが、芸術には端的にその価値を理解させる方法があるので、比較としては妥当ではない。要約すると、登山というのは、やっている本人にしか理解できない価値を持つ、極めて自己満足的な趣味以外の何ものでもない、という事だ。(そうでない、というのであれば、普遍的な価値に置き換えて説明してもらいたいものだ)

さて、そんな私だが、愛犬家という側面もあり、登山はしないが森を一緒に散歩してみようかと色々と調べていた結果、犬連れ登山を非難するサイトで、どれほど犬を連れて山に入るのがいけない事なのかをまとめたサイトを発見した。その名も、「犬連れ登山を考える」。ここは、犬を連れて山に入ることで、どれほどの環境破壊が懸念されるのかを、犬を連れて山に入ることを止めさせるために、説明しているサイトである。

ここの説明によると、犬は人間と違って、ジステンバー菌を保有している可能性があるので、重大な影響を及ぼす可能性があるので、山に連れて来るのは、環境保護のために避けるべきだとしている。一方、人間はジステンバー菌は感染しないので、登山することには何ら問題はないのだそうだ。確かに、犬が保有するかもしれないジステンバー菌は、ひとつの脅威かもしれないが、だからと言って、人間がジステンバー菌を持たない事が山に入ってよいことの理由にはならない。自然環境を保護することが目的だとするのであれば、犬も人間も等しく、登山を含めた保護すべき自然環境に近付くことを禁止すべき、と言うのであれば、理解できる。ジステンバー菌だけをあげつらって、人間よりも犬の方がはるかにリスクが高いと言うが、それなら、人間の方がリスクが低い理由をきちんと証明するべきであろう。(ちなみに、科学的な説明は一切ない)

それが証明できないのに、犬を連れてくることを非難して避けるべきというなら、等しく人間も登山を禁止するべきで、そういう主張をするのであれば理解できるし納得もしよう。あくまで、犬「だけ」が特別、登山を禁止すべき存在だというのなら、その根拠を数値なりで科学的に示すべきだし、街を散歩する犬までを非難の対象にするのであれば、数千年来の相棒として暮らしてきた、愛すべき犬達を、虐殺してまで野生動物を守るのか、という議論に最終的には行き着くと思われる。そこまでの事は求めていないと言うかもしれないが、都会に住む狸を話題に上げて犬を非難している以上、そういったことまで視野に入れた上で議論すべきであろう。

この著者は、『「環境に影響がある=立ち入り・持ち込み禁止」と「環境に影響がない=立ち入り・持ち込みOK」という、どちらか一方の答えしか頭にない二分法バカが多い』と述べているが、二分法バカというなら、それこそ、犬を自然環境に持ち込む無頓着な人間と、犬の影響で死に瀕する野生動物を守る自然愛好家の二分法と言わざるを得ない。環境への影響が少ない=人間は山に立ち入ってもよい、と言っている著者の意見と真っ向から対立する、極めて的外れな論拠と言えよう。

と、これまで散々、山に愛犬を連れて行くことを禁止すべきという主張に対して批判を連ねてみたが、少なくとも私は登山に犬を連れて行くことなどありえない。山に入ったら、熊が出てくるかもしれないし、マムシが出てくるかもしれない。山道を歩いていたら、おかしな自生の植物に触れて、炎症を起こすかもしれないし、毛にゴミなどがついて大変なことになってしまうかもしれない。そもそも、誰が好き好んで、苦しい思いをしても何も得られず、犬を連れているだけで罵倒してくるような輩がいるような無法地帯に、わざわざ出向くと言うのか。

それにしても、こういう、自分達が行っているのは自然環境のためで、そのためには愛犬家達は自粛すべきたという、他人の権利は抑止するが自分達の権利は守ろうという輩には反吐が出る。もしも万が一、犬が全面的に登山禁止とされるなら、人間も含めて登山を禁止すべきであろう。そういわれて、人間だけは登山しても問題ないと言う人間が自然保護を謳うのはまやかしだし、真の自然保護家であれば、当然、人間が登山することを禁止することにも賛同するべきであろう。と言いつつ、私自身は、自然環境はこれまで、人間の影響など及びもつかないような影響を受けながら数億年以上も過ごしてきた訳で、人間や犬の影響もそのひとつだと考えれば、それこそが自然なのではないか、とも思う。

いずれにせよ、はっきり言えることはひとつ。登山は悪趣味だ。

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